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シリア難民

僕は2年くらい前から一切テレビを見なくなった。
テレビから流れるものは、ほとんど全て嘘偽りの世界であると気づいたからだ。
日本にいれば食べるものには不自由はしないし、街中には物で溢れている。
携帯やPCを開けばそこには色々な情報が溢れている。
ワイドショーで司会者がバナナが良いと言えば、翌日には店頭からバナナがなくなる。
しかし1ヶ月もすれば店頭には売れ残りのバナナでいっぱいになる。
はっきり言って、僕はこの世の中、不要な情報や物が溢れていると思っている。
本当に大切なのは自分の目で見て、自分の耳で聴き、自分の舌で味わい、自分の鼻で匂い、自分で経験すること、そして自分の本能や感性で判断することだと思っている。
それに気づいてから一切テレビを見ることがなくなった。
テレビを見なくても、とりわけ不自由することはないが、ニュースについてはインターネットで確認しているので、ネット環境にいなければ、タイムリーなニュースを逃すことになる。
 僕がそのニュースを聞いたのは9月5日だった。
それはドイツ政府がシリア難民の受け入れを受諾したというものであった。
それ以降、多くのシリア難民がドイツに入国しているという。
他のヨーロッパの国に向かうのもミュンヘンが経由地となっているため、シリア難民はミュンヘンに来るらしい。
僕はそのニュースを聞いた瞬間全ての予定を変更してミュンヘン行きのチケットを購入した。
メディアからの情報ではなく、自分の目で確認したい。
シリア情勢を自分の目で確認し、そこで何を感じ、僕は何を思うのだろうか。
 9月16日、チケットを購入してから6日後、僕はミュンヘン中央駅に降りたった。
しかし難民の姿はそこになかった。
ニュースを聞くと、ちょうどその日は難民を受け入れることができないらしく、多くの難民はオーストリアや、トルコの国境上で足止めされているようだった。
中央駅に到着したのが18時だったので、その日は軽く食事を済ませて早めに就寝するこにした。
 翌日6時、ラジオを聞くと本日より、シリア難民の受け入れを再開しているとのことだった。僕は急いでバックに荷物をつめて駅に向かった。
地下鉄に乗ること約5分、ミュンヘン中央駅に到着した。
そこは前日とはうってかわって、大勢の警察が警備にあたっていた。おそらくテロを警戒しているのであろう。
ロープのようなものが至るところに張り巡らされている。
シリア難民はこのロープの中を通って、難民キャンプ行きのバスへと乗車するのだろう。
まだシリア難民を乗せた電車の到着までは時間があるようなので、僕は売店でコーヒーとサンドイッチを購入した。
僕がコーヒーを飲もうと口にした瞬間、電車が到着した。僕は急いでプラットホームに駆け出した。
電車からは多くのシリア難民の方が降りてきている。
小さい子供から、若者、お年寄りの方まで。数え切れないほどの人達。
何気なく、ふと目をやった先には小さい女の子が両親に連れられて歩いてきた。
その目は僕のサンドイッチを見ていた。
女の子と目があった瞬間、何故だか僕は罪悪感に襲われた。
僕は思わず手にしていたサンドイッチとコーヒーを彼女に渡した。
「ごめん。いまの俺にできるのは君にサンドイッチをあげることだけだ。けど、それが良いことが悪いことか僕はわからない。これから頑張って生きるんだよ。多分、たくさん辛い事とかあるけど、それ乗り越えたらきっと良い事あるから。」
僕は心の中でそう彼女に伝えた。
言葉は分からないがサンドイッチを受け取った彼女はとても嬉しそうな笑顔だった。
よっぽどお腹が空いていたんだと思う。
 僕は宿泊業に携わらせてもらって、凄く感じるのは、旅行に行けるのはごく限られた国の、限られた人達だけだということ。
他の国では入国ビザが必要な国が沢山あり、パスポートを持ってても自由に海外に行けるわけではない。ちなみに日本のパスポートを持っていれば基本どこにでもノービザで自由に行くことができ、そして必ず自分の国にかえってこれる。
 この人達は住み慣れた家、街を全て捨て、亡命をしているんだと思うと、僕は途方もなくやるせない気分になった。そして僕は行くあてもないまま電車に飛び乗った。
気づいた時には夕方になってたので、僕は街の中にあるイングリッシュガーデンに行き、芝生の上に座って空を眺めていた。
僕は政治的な事とか、宗教的な事とか、思想的な事を言うつもりは全くないし、何かを発信しようとも思ってない。
ただ、シリア難民の方々を直接見て、自分の目で見たことや感じたこと、思ったことを伝える必要があると思い、僕が見たままそして感じた事をそのまま、このブログに書きました。
ところで皆さん知っていますか?
スターバックスコーヒーやマクドナルド、ペプシーコーラ、ネスレ等々、多くの国際的大企業がイスラエルに対して寄付をしていることを。
そしてそのお金が爆弾に変わっていること。
普段僕たちが何気なく買い物しているそのお金、銀行に預けているそのお金が、人を殺す武器に変わっていることを。。
 そんなことを考えた日のサンセットは特別に綺麗で、それは神様がシリア難民の方々へ、これからの明るい未来に捧げた夕陽だと感じました。
あとがき
実はこの話には続きがあって、ミュンヘンから次の目的地に行く電車の中で、シリア難民の人達と同じ車両に乗り合わせたのだ。
やけに混み合っているなーと思いながら、席を探すと4人掛けの席が空いていたので、そこに座った。
ちょうどドアが閉まった後に、中年の男性が「そこ私の席なんです。」と戻ってきた。
隣の座席は空いているとのことだったので、隣に座らせてもらうことに。
どこから来たの?と聞かれたので日本からと。
仕事何しているの?と聞かれたので、宿泊業をしていますと。
「失礼ですが、どちらから来られてて、お仕事は何をされているのですか?」
僕もおじさんに聞くと、
「私はシリア難民です。シリアでは医者をしていました。いまこの電車に乗っているのはほとんどがシリア難民です。」
その車内を良く見ると、中東系の方々ばかりで大きな荷物を棚や足元に置いていた。
その人はモハンマドさんという名前で、シリアにいた時は裕福な生活をしていた様だった。シリアの情勢が悪化し、家を捨て、国を捨ててここにやってきたという。
シリアから毎日約5000人の難民が生きる場所を探して国外へ向かっている。
少なくとも400万人がシリアから国外へ出たということ。
モハンマドさん達一行はシリアからトルコ、ギリシア、セルビア、ハンガリー、オーストリアを経由してミュンヘンに来たとのことだった。
写真を撮影していたようで、それを見ながら色々と解説してくれた。
トルコでは2日間、雨に打たれながら寝ることを余儀なくされたことや、セルビアで悪い警察官にお金を要求されたこと、ギリシアの人達が優しくて、色々な物をくれたこと。
これからスウエーデンに向かう途中だということ。
モハンマドさんはシリアでは医者をしていたので、恐らく仕事に不自由することはないが、多くのシリア難民は仕事に就けないだろう。
みんなやる気は凄くあるが、現実は厳しいようだ。
僕がブログを書いている事を言うと、是非一人でも多くの日本人に僕が聞いた話を伝えてほしいとの事だった。
「君、お腹空いていない?良かったらこれ食べて。」
僕はシリア難民のおじさんからサンドイッチをもらった。
確かにお腹は空いていたが、これは貰えないと伝えようとしたが、その優しさが嬉しくて僕はお礼を伝えて、有難くサンドイッチを頂戴した。
先日、僕が駅で女の子にあげたサンドイッチが手元に帰ってきたようだった。
世の中、そういう分け与える気持ちがあれば素敵な世界になるのに。
僕もその人に、お礼にTraditional Apartmentのステッカーをあげた。
「これ幸運のステッカーだから。」
「ありがとう。もし家に住むことが出来たら玄関に貼っておくよ。」
そう言って僕たちは握手をして別れた。